【映画】シン・ゴジラ 鑑賞案内 ~絶対に観るべき人、観るべきでない人~
今週のお題「映画の夏」
さて。話題のシン・ゴジラです。
あなたがまだ観ていないなら、こんなところでネタバレを見ずに映画館へGO!してください。そのほうがインパクトは大きい。
とはいえ、事前情報なしで見に行くのは勇気がいるもの。
それは、自分の求めているような映画かどうかがわからないから。
映画の満足度とは、まずは自分がその映画に期待する要素が含まれているかどうか、そしてその水準が満足いくものかどうか、で決まると思う。しかし、払ったカネと時間は戻ってこないので、だまされたような気分になるととても失望する。
そういう意味では映画とは、欲しいものが入っているかどうかわからない一昔前の福袋のようなモノだ。だから、ある程度の担保として監督やら原作やらを参考に、CMや予告の雰囲気も踏まえて観に行くかどうかを決めるものだと思う。
それがネックで観に行こうかどうか迷っているうちに公開が終わる、ということもよくある。自分にとっては2014のハリウッド版ゴジラ、通称ギャレゴジがそうだった。
なので、ネタバレの前に、こんな要素は入っているとか、これを期待するならやめとけとか、そういうことを書いておくことにする。自分に合いそうかどうかは何となくわかるんじゃないかと思います。どうせ観るならIMAXとかでやっているうちのほうがいいからね。
ただ、要素を書き出すということは若干でもネタバレとなる感はあるので、一切見たくないならとにかく観ろとしかいえない。
シン・ゴジラはこんな映画~鑑賞案内~
【短評】
端的にいえば初代ゴジラを現代日本でリブートしたものといえるかもしれない。
劇中ではゴジラは歴史上はじめて登場するが、それを描く側は連綿とした特撮作品の歴史、エヴァンゲリオン、3.11、パシフィックリムの衝撃、2014版ゴジラを経て、それらを完璧に消化しきった上での会心の一発を放ったと評価する。個人的には最高すぎた。
まあ、はっきりいって観る人は選ぶと思う。作品として「頭空っぽでも楽しめるエンターテイメント」では全然ない。
ちゃんと見ようと思うとものすごく頭も使う、というか劇中の会話の情報量が半端じゃないので、深く味わいたいオタク気質の場合は、自分のヒアリング能力、理解能力をフル稼働させることになる。
あ、でも雰囲気だけ味わう分には頭痛くなることもないです。会話は流しとけばいい。
それでもリアル感、シリアス感、絶望感を堪能し、いろいろ考えさせられる映画。爽快なカタルシスとは異なる種類の快感だな。
入っている要素
- 古き良き特撮映画への憧憬
- 「あ、日本終わった」感
- 未曽有の危機に立ち向かう集団としての日本人の姿
- 初代ゴジラの持つ生々しさ
- 現実的な災害シミュレーション
- 専門用語飛び交う会議と政治ドラマ
- 伊福部昭
- 庵野テイスト
- イーオンで学んだ英語
含まれていない要素
- 爽快痛快なアクション
- 立ち上がったのはごく普通の一人の男。だが彼は英雄となった。
- 謎の美女とのロマンス
- 世界最高のCG
- 怪獣同志のド迫力バトル
- 空想科学成分(超兵器とか)
- キッズ・ファミリー向けワクワクほんわか成分
- ハム太郎
- ネイティブも納得の英語
要素についての解説
さて色々書きましたがこれだけだと何のこっちゃなので、一つ一つザクっと解説。
入っている要素のほうから。
- 古き良き特撮映画への憧憬
これはまあ特撮オタクである庵野監督の趣味がよく出ているので、そういうのが好きな人は見といて損はない。これだけCG全盛の現在、今更当時の特撮で作ってしまうことはできないが、そういう雰囲気はうまく出している。ちょっとチープな部分もそれで誤魔化せる、ともいえる。
いちいち出てくる機械とか場面に明朝体のテロップが入るとかね。あと効果音とかも現代のものではなくあえて「昭和特撮で人が作って再現していた音」の雰囲気だった。ゴジラの足音とか爆発音ね。
- 「あ、日本終わった」感
3.11のあのとき、被災地にいた方々には失礼ながら、テレビ越しであってもフクシマの被害の甚大さと、原発が吹っ飛んだという「ありえない、あってはならないはずのことが起きている」感はものすごかった。今作は明らかにフクシマを踏まえてのもので、ゴジラこそ現実にはないのかもしれないが、実際にそれに近いことが起きているのだという圧倒的な現実は、鉛でも飲み込んで胃のあたりにつかえているような感覚を与える。おそらく最初のゴジラが公開されたとき、戦争の記憶も残る中で、第五福竜丸が水爆実験の影響で被爆したという時代背景もあって、当時の国民だけが感じることのできたリアル感と近いものがあると思う。
- 未曽有の危機に立ち向かう集団としての日本人と、支援する国々の姿
絶望的な中でも希望を抱けるのはなぜだろうか。今作では主人公こそいるが、超人的な活躍とかアクションをするわけではない。一人の英雄ではなく、チームとしてあがく姿がそこにある。名もなければ顔も映らないかもしれないが、確かにそこにいて、日本の未来のために懸命にあがく普通の人々の気配がある。みんな、自分のできること、やるべきことをやっている。愚直に、懸命に。そういう姿にこそ人は心打たれ、助けたいと思うのではないか。最初から他人を当てにする奴なんて誰も助けたくないんだ。
- 初代ゴジラの持つ生々しさ
1954年公開の初代からずっとゴジラは、核、原子力の影響を受けたという設定であったが、描かれ方はずいぶんと作品によって異なる。初代ではゴジラ対人類が描かれる。
怪獣バトルが人気になって、特撮ヒーローが描かれるようになるとリアリティよりも楽しさを重視した作品になっていくが、どうにも子供っぽい雰囲気にもなり「大人の観るものではない」という雰囲気になり、低迷し制作は休止される。1984年、しばらくぶりに作成された作品は初代に近いノリで、敵怪獣もいないが、初代の迫力というか雰囲気を持つまでには至らなかったと思っている。
今作は、先にも述べたように、フクシマを経験した日本人にしか作れない、そして感じ取れないリアル感をまとっている。これは初代にも通じるリアル感、生々しさといってもいい。DVDで後から見ても何か感じるものはあると思うが、できるなら今劇場で観たほうがいい。
- 現実的な災害シミュレーション
東京都民全員をすぐに非難させろとか言われても現実には無理だ。東京だけではない、大都市はどこも現実には危機に極めて脆弱なのだ。見ないふりをしているだけ。
最初は大したことはない小規模な自然災害だと判断しながら、官邸や政府の動きが描写されていくが、事態が悪化していくにつれて災害対応がいかに困難なのか見て取れる。最後は住民の自主避難に任せるしかない、とか。
最初しばらく緊急閣僚会議やら対策会議やら、会議場面ばかりだが、実際にこのように動いていくのだろうなと思わせられる。執拗なまでの描写をくどいと感じる人もいるかもしれないが、ゴジラという虚構に対し、対応する日本のリアリティにつながっている。
- 専門用語飛び交う会議
おそらく異常なレベルで頭にすんなり入ってこない単語を高速でしゃべる官僚たちの会話やカタい法律的な言い回しなどが飛び交う会議場面が続く。用語をいちいち理解する必要はなくて、雰囲気だけでいいんだけど、理解できる人にはより深く楽しめるような重層的な作りをしているんだと思う。そういう業界の人は雰囲気出ているなあと思うんじゃないだろうか。
情報量が半端じゃないので、掘り下げたい人はどこまでもイケそう。その分、日本語ネイティブじゃない外国人やおこちゃまにはキツすぎる。マセていて政治やら科学に興味のあるタイプの子どもなら、高学年なら何とかいけるか。
詳細はここでは書かない。
あと、自衛隊を見ると頭の中に伊福部マーチが・・という人も。
- 庵野テイスト
あまりエヴァは詳しくないのだけど、いかにもそれっぽいテイストが感じられる。別にエヴァをやろうとしたのではなくて、監督がエヴァの人なんだから同じような雰囲気が出るんだと思う。バックボーンは特撮趣味にあるんだろうから。
- イーオンで学んだ英語
石原さとみの役柄は日系アメリカ人。頑張ってはいるけど、ネイティブの発音じゃないのは否めない。
役柄と演技まで酷評する意見も見たけど、ダメなのは発音だけだと思う。浮いているキャラなのは意図してのものだと見る。
以下、入ってない要素。
- 爽快痛快なアクション
- 立ち上がったのはごく普通の一人の男。だが彼は英雄となった。
- 謎の美女とのロマンス
- 世界最高のCG
このへんはハリウッド映画のテンプレですが、そういうものが好きなら別の作品をオススメします。っていうか同じことやってもしゃーないんです。
予算規模も全然違うんだから同じ土俵では勝負にならない。
日本でしかできない、日本だけの魅力的な作品を作るんだ。純度を上げるには、ハリウッド要素は不純物でしかない。っていうかこういう要素、テンプレすぎてちょっとB級の匂いすらしてくる。
CGについては今日本でできる精一杯頑張っていると思うんだけど、ちょっとでもCGっぽさが出ていると蕁麻疹がでるという人はやめといたほうがいい。メリハリつけていると思うけどチープな場面もある。でも、虚構としてのゴジラを描いている場面だからなのかもしれない。
- 怪獣同志のド迫力バトル
今作はそっち系じゃないので、パシフィック・リムとギャレゴジ見とけばOKです。
- 空想科学成分(超兵器とか)
これ僕も割と好きなんだけどリアリティを損なう面は否めないので、今作には一切入れてないんだと思う。実際にはない兵器もあるけど既存のモノを流用していたり、現実の延長線上で実現できていておかしくないモノに留めていることでリアリティが増す。
でも特撮っぽさを出すための演出では、そういう雰囲気は味わえると思います。電車でGO!
- キッズ・ファミリー向けワクワクほんわか成分
- ハム太郎
はい。おとなしくファインディングドリーを見てね。
子供向け成分はほぼ0です。オトナのためのゴジラです。
昭和のコミカルで子どもの味方なゴジラはここにはいません。
- ネイティブも納得の英語
許してあげてください。
ハリウッドであえて使わせる日本語とおなじようなモノ、こっちの客に雰囲気だけ出ていればいいんです。ヤボな突っ込みは無用(涙目)
むすび
というわけで参考になれば幸い。
うーん十分長くなった・・・
詳細なレポ、レビューはまた今度。